"好きな音"は、"良い音"だ。「リファレンスCD」の巻

Tiny speaker.

多趣味すぎて毎日が忙しい私ですが、中でも「オーディオ趣味」は古くから取り組んでいる趣味の一つです。


とはいえ豪華な再生環境は持っていませんが昔から1つ心がけている事があります。それは「自分の好きな音」をちゃんと理解・認識する事です。

その理想とする音が目の前の機器で奏でられているか?を理解していれば、例え高価な機器で無くともオーディオ趣味は豊かになる、と考えるためです。

 

そんな好きな音を確認する際に用いるのが、いわゆる「リファレンスCD」と呼ばれるもの。皆さんは自分にとってのリファレンスCDはございますでしょうか。

リファレンスCDは、録音状態の良い市販CDの中から自分好みのCDを選べば良いだけなんですが、いつも同じCDの同じ楽曲を聴く事で、異なったオーディオ環境を"主観的"に比較できるツールとなります。

とは言え、どのCDが録音状態が良い(=名うてのレコーディング・エンジニアが手がけているか)を探すのは大変ですから、オーディオ雑誌などの情報が頼りになります。

尤も、私としては聴き慣れた好きな曲から選べば良いのかなと考えます。

   

 

私がリファレンス用としている1つがクレア・マーロ(Clair Marlo)の「Too Close」という曲。こんな感じの曲です(2003年のリマスタリング版より)↓ 


クレア・マーロは日本じゃ無名ですが(・・・正直、私もあまり詳しく知らない)、ニューヨーク出身のネオ・クラシカル・ジャズの女性です。バークリー音楽大学卒の実力派で、伸びやかな歌声と雰囲気がとても好きな、心地よい楽曲です。

上記YouTube音源は「IASCA(International Auto Sound Challenge Association=国際カーオーディオ競技会)」が出している(まさに)リファレンス用CDとして、録音状態の良い楽曲を掻き集めたCD集から抜粋されています。

 

少し話が逸れますが、このクレア・マーロは音質への拘りがハンパないミュージシャンとしても知られています。

彼女は1989年に「Sheffield Lab(シェフィールド・ラボ)」レーベルから「Let It Go」というCDとLPレコードをリリースしますが、このSheffield Labは(1970年代オーディオブームを体験した爺さん層には有名なレーベルで)いわゆる「ダイレクト・カッティング」なる特殊なレコーディング手法を用いていました。

 

当時、通常であれば一旦、テープレコーダーに録音し、それをレコーディング・エンジニア達が演奏ミス部分をカットしたり、各パートのレベル調整など様々な編集と調整を経て最後にレコードに刻むプロセスでした。

ただ、そうすると途中にテープレコーダーが介在する関係から(性能的にも限られたアナログ装置な当時では)どうしても音質が制作過程で劣化する事が避けられません。

 

そこで、このSheffield Labを始めとする幾つかのレーベルはこの音質劣化を嫌って、スタジオで生演奏したのをそのまま直接(=ダイレクト)にレコードに刻む(=カッティングする)手法を取り、音質の向上を実現します(!)。

これは演奏者は一切のミスが許されないのは勿論、レコーディング・エンジニア側にとってもレベル調整からミキシングまで一発勝負で録る・・・そんな極めて拘りの強い録音方法を試みるレーベルでした。

 

話を私がリファレンスに用いる曲「Too Close」に戻します。

Too Close」が収録されたアルバム「Behaviour Self」はWildCat Recordingというレーベルから1995年に出ました。このアルバム自体、とても良い音質で録音された名盤で、クレア・マーロが音質に拘った作品づくりをしていた事が分かります。

 

そして、ここからヤヤコシイのですが・・・

先述のダイレクト・カッティングを行なったレーベル、Sheffield Labと1989年に出した「Let It Go」が、2003年に米国のCisco Musicというレーベルから高音質CDであるSACD(=スーパーオーディオCD)でリマスタリングされて再販されます(日本リリース無し)。

その際、1989年の「Let It Go」収録曲(計10曲)に加え、1995年に発表した「Too Close」など高音質録音された他のアルバムからの曲(計3曲)がボーナストラックとして収録されることになります。

・・・つまり、何が言いたいか?というと、「Too Close」という曲には1995年リリースのオリジナル版(CD)と、2003年リリースのリマスタリング版(SACD)の2タイプが存在するのです

 

どっちも良い音ですが、リマスタリング版は音の解像度が更に向上して立体的に感じられますし、一方のオリジナル版は良い意味で落ち着いた曲として仕上がっています。

オリジナル版は自宅の居間で聴くオーディオ機器のリファレンスとするのが最適な一方、カーオーディオやDAPに入れて街中の散歩中に聴く等のリスニング条件の悪い環境下ではリマスタリング版をリファレンスとするのが良いかな、と考える訳です。

 

このように"同じ曲"なのに性質の異る2タイプ(そして両方とも素晴らしく高音質な楽曲!)があるので、私がリファレンス用途として「Too Close」を長らく用いている訳です。〔了〕