「絞り込み測光」と「開放測光」そして「TTL」。
カメラは光を集めて写し出す装置のため、光の量(=被写体の明るさ)を測る「測光」がとても重要です。
いまでこそ当たり前すぎて意識しない「TTL測光」ですが、「TTL(Through The Lens)」の名の通り、レンズを通じて入ってきた光の量を測定するこの方式が確立したのが1960年代になります。
それ以前はレンズを通した光では無く、直接、被写体の明るさを測定していました。古いカメラですと、カメラ本体の上に露出計が搭載されているのを見たことがあるかと思います。
※上記図はキヤノン公式サイトより引用
冒頭のカメラは、我が家にある「Canon FT QL」(1966年)。TTL測光を搭載した一眼レフカメラです。キヤノン初のTTL測光を搭載した「Canon PELLIX QL(ペリックスQL)」(1965年)の翌年に発売されたTTL絞り込み測光搭載の第2弾です。
この「絞り込み測光」という概念、今となってはイメージし難いのですが、簡単に言うと測光するためにはレンズの「絞り」を、実際に撮影したい絞りに合わせてから測光することになります。これがどういう問題を孕むかというと、当時のカメラは当然ながらオートフォーカスなんて搭載していないので、ピント合わせは手動で行う必要があります。
レンズは絞りを絞っていくと(=絞り値を大きくしていくと)絞り羽が小さく絞られてレンズを通じて入ってくる光の量が少なくなってしまい、ファインダーを覗くと被写体が暗くなってピント合わせなど到底無理(また、絞り開放付近の被写界深度が浅い(=ピントが合っている面が薄い)状態で覗かないと、どこの部分にピンポイントでピントが合っているのか分かり難くなります)。
そのため絞り込み測光しかできないFT QLでは、まず被写体にカメラを向けて、絞り込みレバーを押し込んで設定した絞り値まで実際に絞り羽を動かして測光し、撮影者が意図する露出になるようにカメラボディ側のダイヤルでシャッター速度を調整したり、レンズ側に付けられた絞り環(しぼりかん)で絞り値を再調整し、それから被写体へのピントを合わせてシャッターを切る、という”所作”が必要となります。
こうした一連の測光が「絞り込み測光」と呼ばれる形式です。いまでは考えられないくらい億劫な機構ですね。
キヤノンでは、その後、1971年に発売されたフラグシップ機「Canon F-1」で初めて開放測光(=ようは一々、絞り込みレバーを押し込んで実際の絞りにしてから測光する必要が無い測光方式)が採用されます。
※Canon F-1はキヤノンにとって、それまで技術的にもマーケット的にも差を付けられていた日本工学工業株式会社(現ニコン)に対し大きく肉薄・躍進する契機となった名機です。現在に至るまでキヤノンにおいて「1」の名称は最上位のフラグシップ機に割り当てられる誉れ高い称号となっています。
全てが機械仕掛けで構成された古いカメラを触っていると、精密な機械式時計を愛でるような不思議な感覚になりますね。とても愉しい時間です。〔了〕