「Imagine(イマジン)SS-E10」という黒歴史
この佇まいを見てどうお感じになるでしょう。暖かみと洗練さが調和した素晴らしいデザインだと思いませんか。・・・私もそう感じた事がありました。実際、買いましたもの。
この「Imagine(イマジン)」こと「SS-E10」は中々に”後味の悪さ”が残る、私にとってのオーディオ黒歴史でした。
「Imagine」はパナソニックが1990年11月に発売したオーディオ・システムの愛称です。いわゆるシステムコンポに近い形ですが、システムコンポがアンプやプレイヤーの他にスピーカーまでセット構成なのに対し、この構成は
(1) SA-E10 ・・・ チューナー&アンプ
(2) SL-E10 ・・・ CDプレイヤー
(3) RS-E10 ・・・ テープデッキ
の3点を基本とし、(1)〜(3)をまとめて「SS-E10」として「146,000円(税別)」で売られました。ただし、通常のシステムコンポと異なり、スピーカーは別売で上記写真のデザインを同一にした推奨スピーカーSB-MX30が存在します。
(4) SB-MX30 ・・・ 2wayスピーカー。1台24,000円(税別)×2本=48,000円(税別)
つまり、上記写真にある組み合わせを一通り揃えるには、合計194,000円(税別。当時の消費税率3%で計算して税込199,820円)を要する、当時としてもかなり高価な高級機です。
また、これに追加される形で
(5) SH-VE10 ・・・ ドルビープロロジックAVプロセッサ (税別 50,000円)
(6) SV-E10 ・・・ DATデッキ (税別 116,000円)
も発売されています。
(4)〜(6)は他のオーディオ機器(いわゆる単品コンポ)としても想定されているようですが、その統一されたデザイン(=他のコンポと似てない姿)から、この”Imagine”以外で組み合わせるのは((4)のスピーカーを除くと)考え難いです。
また、専用の横型な大型リモコン(今でいうiPad miniを横にした位の大きさ&5〜6倍分厚くしたようなリモコン)で一括制御でき、リモコンにある大きな液晶表示で遠く離れたImagineシステムを完全に制御できる優れものでした。
この「Imagine」はカタログ写真からして、実に優雅で落ち着きのある品格に満ちた、特別な感じのするオーディオ機器で憧れを抱きます。先述のように操作は大型リモコンで一括制御で行う等、操作ひとつを見ても実に洗練されていました。
海外ではTechnics(テクニクス)ブランドで売られていました(Imagineなる恥ずかしい愛称は付けられていなかった模様)。
そんな上記(1)〜(3)の「SS-E10」セットとスピーカー「SB-MX30」を私が購入したのは1992〜1993年頃。リリースされた1990年11月から、まだそれ程の年月も経っておらず、更に新品同様な美品中古であったものの、7万円くらいの安価で購入した記憶があります。
当時は「セットで20万円するオーディオが1/3の値段で買えるなんて!」と興奮したものの、そう遠くない時期に何故これが安価で販売されていたのか身をもって感じることになります。・・・要は最後まで満足できなかったんです。
確かに素晴らしいデザインでした。1991年にはグッドデザイン賞を獲得している程。でも、この審査員もきっと現物は見ていないのかなぁ・・・と感じる程に、実際に我が家に置いてまじまじと見ると、粗の目立つデザインでした。
まず、シャンパンゴールドな外観ですが、近くで見ると・・・うーん、塗装がダメ。広いリビングで遠目に見る分にはごまかせても、部屋の机の近くに置いたりすると粗が目立ちます。とりわけプラスチックが多用されていることもあり、カタログ写真で感じたような硬質感はまるでありません。特にフロントパネル部分とか手に触れた時の触感が安っぽいのです。
加えて、全てを制御できるリモコンは完全にプラスチックの塊で、何か操作するたびに”しなる”感じ。本体前面のボタンやリモコンのボタン、すなわちボタン類すべて押した時の感触がグニャリとして芯が無かったり、ボリュームつまみを回す時の感触が安っぽかったり。また、筐体そのもののアルミパネルの薄さなどから剛性感にも乏しかったのが印象的でした。
洗練されたデザインが惹かれたポイントだった筈が、手に触れたり間近で凝視した途端に真っ先に幻滅させられる減点ポイントとなってしまいました。
とまれ、オーディオ機器は音質が命。音さえ良ければ前述のような多少の欠点だって許せます。
アンプは6Ωで80w + 80wとハイパワーだし、CDプレイヤーだってパナソニック(当時は松下電器)がNTTと共同開発した「MASH」と呼ばれる当時では先進的だった1bit DACを搭載しています。テープデッキだってドルビーHX PRO搭載、スピーカーは振動板に天然素材マイカを用いた適度な大きさのブックシェルフ型。きっと良い音色が期待できます。
実際、どんな曲をかけても、そつなく綺麗に奏でてくれました・・・でも、やっぱり、操作ボタンに触れるたびに気が滅入った事や、そもそも、音は(とても綺麗なものの)フラットすぎて特徴が無かった事などから4〜5年程で「飽きて」しまいました。
少し話は変わりますが、iPod(第4世代)を初めて買った2004年、その硬質感や上質感・凝縮感に圧倒されました。小さな本体に”全て”が詰まっている、その寸分の隙も無い設計に心底驚き、そして気に入りました。
・・・それに対し「Imagine(SS-E10)」は、まさに”真逆”で、その筐体に触れる度に幻滅させられる存在でした。発売からそう年月が経たないうちに新品同様の中古美品が1/3の価格で売られているのも納得。
結局のところオーディオ性能は「見た目が8割」なんて言説は本当なのかも知れませんね。
そんな苦い思い出のオーディオ機器でした。〔了〕