デジカメ黎明戦記(6)〜未来カメラ、DSC-F828
いまやミラーレスで国内シェア2位にまで成り上がったソニー(BCNランキング 2019年1月〜12月)。私は主にキヤノンを使っていますが、ニコン機やオリンパス機も、ほぼ違和感なく使えるのに対し、昨今のソニー機だけはどうしても操作メニューや体系が直感的に理解できません。
例えば、フィルムカメラ時代のミノルタα7000(1985年)で覚えた操作体系は、35年後のデジタルとなった現在でも、ほぼそのまま通用し、メーカーが異なるキヤノンであってもニコンであってもそれは同じで違和感はありません・・・が、ソニーに至っては、ヨドバシカメラで店員さんに教えて貰いながら操作するも「え?なんでこういう操作になるの?」と戸惑いばかり。
それはソニーが旧来から脈々と続く「カメラの在り方」を善しとしていないからなのでしょうが、昨今のソニーαに関してはメニュー体系などの操作が独自すぎて私には馴染めませんでした。
しかし、今回ご紹介するソニー「DSC-F828」は、旧来からの伝統的なカメラの操作体系を踏襲しながらも新しいソニーならではの提案があり、さらに外観シルエットは見たことも無い程に斬新というアプローチによるものでした。
【DSC-F828:基本スペック】
センサーサイズ:2/3型 CCD
画素数:810万画素
焦点距離:28〜200mm(35mm判換算)
絞り:f2.0〜f2.8
発売:2003年11月(税別160,000円)
私が購入したのは発売から4年以上経過した2008年3月、ほぼ新品に近い中古品。その年の秋に第1子となる長女が生まれることもあり、ケータイばかりで撮ってもいられないな、とデジタル一眼レフカメラの購入を検討。ちょうど当時はキヤノン「EOS Kiss X2」がリリースされ、デジタル一眼レフカメラが盛り上がってきていたタイミングでもありました。
・・・ただ、モノグサな私はレンズ交換が億劫なので、ならば広角28mm〜望遠200mmまでをカバーでき、尚且つ明るさはf2.0〜f2.8という信じられないスペックなDSC-F828を選ぶことになりました(フィルムカメラ時代はセンサーサイズなど気にしませんでしたが、デジカメにおいてセンサーサイズが如何に重要な要素か思い知らされた機体でもありました)。
こうした「1台で全部済ませてしまおう」系のレンズ一体型カメラは、当時「ネオ一眼」と呼ばれる新しいジャンルを築きつつありました。
このDSC-F828が画期的だったのは、レンズ部分とボディ部分が可動式となっていて角度をつけて撮影することが出来たり、レンズ部分の側面にはズラリと操作ボタンが並び、各機能にボタン1つでダイレクトアクセスできること、更にはコマンドダイヤルとジョイスティックを装備し、これらを駆使してメニュー操作を素早くできるようにする等、まったく新しい操作体系のアプローチが試みられておりました。
従来の一眼レフカメラメーカーのリリースするカメラとは明確に設計思想が異なっているものの、これら操作体系は、旧来からの伝統的カメラが持つ操作体系にプラスされたような設計となっているため、迷うことなく基本機能の操作ができました。その上で各種機能へのアクセスが楽になっている、という感じであった為に「これは使いやすい」「これこそ未来のカメラだ」とコンサバティブな私でも素直に受け入れられるものでした。
この辺り、ソニーの技術者は本当にカメラが好きで、自分自身でも多くのカメラを使ってきた上で設計したに違いない、と感じるものです。それくらい良く出来ていましたし、伝統的なカメラに対するリスペクトも垣間見れる、そんなカメラでもありました。
DSC-F828は、前述したような操作体系の良さの他にも、やはり写りの良さも印象的でした。CarlZeiss Vario-Sonnar T*レンズ搭載と云うのは伊達じゃないです。
東京・秋葉原のミスドにて。窓ガラスの網目も細かく描画されています。レンズ表面には反射を減らしてコントラストやシャープネスを向上させる「T*コーティング」なる表面処理が施されているそうです(2011年8月)(2008年6月)
広角28mmは奥行きのある写真が撮れますね。発色の美しさが好きです(2011年8月)
広角端28mmはテーブルフォトでも手前の料理から人物まで広く収めることができるので便利(2008年4月)
広角端28mmの歪曲。なかなかダイナミックに歪曲が出ており、これを許せるかどうかでDSC-F828への評価は大きく変わりますね。逆光ではゴーストも盛大に現れます。
札幌プリンスホテルのタワー。歪曲収差は多め。この約50mm相当でも歪曲は感じられますが、私はこれくらいの歪曲はダイナミックさの演出として好きです(2011年8月)
北海道・函館港に停泊中の高速艇。望遠端200mmで撮影。昼間でもノイズは気持ち多めですが、それも味でしょうか。旅行先では28-200mmは大変重宝します。
北海道・支笏湖にて。以前乗っていたスカイラインセダンと夕暮れ。基本的に暗い場所の撮影は苦手ですが、夕暮れを美しく描写してくれる発色の良さが目を惹きます。
絞り開放f2.0とf5.6でのボケ比較。2/3型とセンサーサイズが小さいのでボケ量は少ないですが、それでも背景が溶けるようにボケているのは絞り羽根7枚のおかげでしょうか。
右上のLED信号機が盛大に暴れていますね・・・
「徳丸」の看板上にある葉っぱにパープルフリンジが盛大に出ていますね・・・
DSC-F828はとても良いカメラで、長女の成長記録から旅行まで大いに役立ってくれました。
前述のように旧来からの伝統的なカメラの”作法”をベースに、そこに独自の操作性を提案している設計には共感が持てました(反面、昨今のαシリーズは敢えて作法を無視して作られているのが私には馴染めません)。
肝心の写りも、CarlZeissの名を冠するのは伊達じゃなく、シャープな写りで気に入っていました。歪曲収差の激しさやパープルフリンジが盛大に出る点など、これらを「欠点」と見るか「味」と捉えるかでDSC-F828の評価は大きく分かれますが、私は概ね気に入っておりました。
しかし、DSC-F828には、どうしても「超えられない壁」がありました。それは「センサーサイズの小ささ」故に生じる弊害です。
昼間でも比較的ノイズがのってくる傾向の描画で、夜間撮影はとくに厳しかったです。フィルム時代から比較すると僅かなノイズですが、当時出ていた他社のAPS-C機などと比較すると「超えられない壁」の存在を強く意識させられました。
また、レンズの明るさがf2.0〜f2.8と、途方もなく”明るい”訳ですが、これはDSC-F828の小さなセンサーサイズだから可能なダケであって、前述のようにその小さなセンサーサイズがネックとなっているのであれば、この明るいレンズも意味を為さなくなってしまう訳です。
結局、2009年10月に、これまで避け続けてきたデジタル一眼レフカメラ「キヤノンEOS Kiss X3」を購入することに(以降、現在に至るまで基本的にキヤノンEFマウントを使い続けています)。
当初こそレンズ一体型の利便性に拘って「ネオ一眼」のソニー「DSC-R1」(2005年)なども検討しました。DSC-R1は、DSC-F828の2/3型センサーと比較し、実に約5倍の面積となる21.5×14.4mmのCMOSセンサーを搭載していましたが、それでも僅かにAPS-Cには届きません。なによりDSC-R1は、その形状がイマイチ洗練されていないと感じたので購入を見送りました。
フィルムカメラ時代のミノルタα7000のレンズ資産が少なからずあったので、ソニーα(※2006年1月、ソニーはミノルタのカメラ事業を継承していた)という選択肢もあったのですが・・・
その頃から、ちょうどソニーの評判は低下していた時期で、いわゆる壊れやすかったりしたことや、ちょうど社長がハワード・ストリンガー氏になったタイミングでもあったので「どうせ数年でカメラ事業から撤退するだろう」と信用していなかったのもあります・・・
スタンダードなキヤノン、それも入門機のEOS Kiss に落ち着いたのは、散々遠回りして私自身、疲れてしまった感があったのも否めません・・・〔了〕