デジカメ黎明戦記(4)〜最悪だった、リコーRR10


戦前、1936年に「理研」こと理化学研究所が感光紙を製造・販売する会社として設立した「理研感光紙株式会社」。後に社名変更したこの会社、いまでは誰もが知るところの、コピー機を始めとした事務機器を製造する、あの「リコー(RICOH)」です。

 
感光紙とは、写真の焼き付けや、文書の複写に用いられるもので、いわばリコーは会社設立の理由そのものから「写真」と深い関係にありました。

反面、最近ではリコーがカメラ事業を行っている事を知らない人も少なくありません。ちょっと年配の人だと「リコーもカメラ作ってたよね」と過去形で話される事もありますが、リコーは(執筆時点の2020年6月に至るまで)カメラメーカーでもあります。
 
Ricoh Caplio RR10 - 2001
リコーがカメラメーカーとしてイマイチ認知が低いのは、過去においてキヤノンやニコンといった巨頭にならぶ事が一度も無かった事や、主に売れ筋はコンパクトカメラにあった為とも言われています。また、フィルム時代からリコーのカメラは、良い意味で(も悪い良いでも)巨頭とは異なった独自路線を歩み特徴を出す、そんな存在でもありました。
 
そのリコーたる特徴が在らぬ方向に(ナナメ上に)行ってしまった典型例の1つが、私の買ったコンパクトデジタルカメラ「Caplio RR10」です。
 
 【基本スペック】
  センサーサイズ:CCD 1/2.7型
  画素数:211万画素
  焦点距離:38〜76mm相当(35mm判換算)
  絞り:f2.8〜3.8
  発売:2001年7月
 
私がリコーRR10を購入したのは2001年秋頃。その前に買ったデジカメは1998年4月に購入した、僅か35万画素しか無いソニー「DSC-F3」でしたので、実に3年半ぶりのカメラ購入でした。
 
2000年頃のデジカメは進化が激しく、100万画素!200万画素!!と、どんどん画素数が大きくなって行った時代で買い時が難しかったこともありましたが、何よりインパクトがあったのが「携帯電話」にカメラが搭載されるようになった事でした(J-PHONEの写メールが2000年11月に開始)。
 
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私も当時はカメラ付きガラケーのシャープ製J-SH04を使用して11万画素の粗い写真を愉しんでおりました。単体カメラで撮るよりも、ガラケーで撮ることに愉しみを覚えた時期です。そうしたガラケーで撮った写真をメールで送受信できるようになり、いわゆる「写メール」なる言葉も登場します。
 
写メールが画期的だったのは写真の楽しみ方が根本から変わった点にあります。いま目の前で起きている事を写真に撮って送り合って愉しむという新しいスタイルは、これ迄の写真がどちらかというと「過去をアーカイブしていく愉しみ方」だったのに対し、「今を切り取って送り合うリアルタイム性」に大きく変わっていった画期的な出来事でした。
 
当時のガラケーのカメラには大きな弊害もあって、当時に沢山やり取りした写真画像すべてが今では起動さえしない携帯端末の中に入ったきりになってサルベージもできない状況にあります。しばらく写メールを夢中になって遊んでいたものの、結局デジカメも併用していこうと考え購入したのが、このリコーRR10でした。
 
Ricoh Caplio RR10 - 2001


このRR10最大の特徴は「MP3が聴ける」こと。つまり携帯音楽プレイヤーとしても使えるデジカメという、後にも先にも有り得ない仕様となっていました(当時、実は他にもMP3再生機能付きデジタルカメラは富士フイルム「FinePix 50i」やコダック「Kodak mc3」なんてのもありましたが、いずれもムーブメントを起こすには至りませんでした)。
 
・・・なぜ私がそんなゲテモノ仕様なRR10を買ったか、というと、先述の写メール体験によってカメラそのものへの心理的プライオリティが下がってきた事や、当時出始めていたMP3プレイヤーもあったら便利かな、という浅い考えによるものデシタ。
 
 
さて、肝心の性能について。まずはオマケ的な音楽プレイヤーとしての面を述べると、これが最悪。内蔵のヘッドフォンアンプが致命的に悪く、どんな音源を聴いても最低な音質に早変わり(苦笑)。付属イヤホンは昭和時代のテレビ用片耳イヤホンみたいな粗悪な品だったので、他の愛用するイヤホンに取り替えたところ、尚更音の酷さが浮き彫りになってくる状況。リコーとしてはMP3再生機能などオマケ機能程度にしか考えていなかったのでしょうが・・・それにしても酷いもので、結局MP3機能を使う事は殆どありませんでした。
 
次に肝心のカメラ性能について。当時、コンパクトカメラで200万画素というカメラはある意味ようやくマトモに使えそうなデジカメの到来となった感があり、実際、キヤノンが初代IXY DIGITAL(2000年5月:202万画素)を発売して以降、その安定した画質の良さに「200万画素コンデジは結構いいぞ」な雰囲気も出てきました。
 
翻って、リコーRR10はどうでしょう。レンズが焦点距離38〜76mm相当(35mm判換算)の光学2倍ズームを搭載し、絞りもf2.8〜3.8と決して悪いものではありません(フィルム時代から考えると良い部類です)し、フィルム時代からコンパクトカメラのレンズ性能には定評のあったリコーですから、悪いものでは無さそうです。しかし、肝心のセンサーが全くダメでした。
 
具体的には1/2.7型CCDセンサーの懐が浅く、すぐに白トビする傾向にあります。これは元々、RR10で撮影した画像は「ちょっとやり過ぎでは・・・」と思えるほどにコントラストが高めに設定されており、それ故に白トビがしやすい仕様だった感も否めませんが、それにしても酷い白飛び連発状態でした。
 
また、暗所性能も弱く、ISO感度はISO100〜400しかありません。室内や夜間など少しでも暗いとスグにブレた写真となってしまうものの、三脚穴が無い(!)ので三脚に固定できず、手ブレを安定させることができませんでした。また、中途半端にMP3としてのデザインを考慮したのか、カメラとしては奇妙な形状となっており、肝心のシャッターボタンが押しにくい位置にあって、ホールドしずらい本体形状と相まって日中でも手ブレを誘発しやすい難儀な形状にも関わらず、平気で1/15とかのシャッター速度にされるものだから手ブレ写真が大量に量産されてしまいました。
 
加えて、明るい日中の青空であってもノイズが目立つ等、とにかくカメラとしての根本が成っていないダメダメな状況でした・・・
 
Ricoh Caplio RR10 - 2001


このように、RR10には失望ばかりを覚えたのですが、唯一よかった点は充電用のクレードルに装着し、Syncボタンを押すとシリアルケーブルで有線接続されたパソコンに写真を簡単に転送できるというものでした。
 
この運用は中々楽チンではありましたが、基本のカメラ性能が残念だった為、結局、ケータイで気軽に撮る生活に戻っていきます。ちょうどその頃、嫁さんと結婚した事や、いわゆるガラケー全盛期で色々と面白いカメラ付きケータイが出ていたことから、頻繁に機種変更をしながら様々なガラケーのカメラを愉しむ時代が暫く続きます。
 
RR10が最悪だったこともあって「もう暫くカメラはいいや」と思っていた頃でした・・・〔つづく