ハイレゾ認証イヤフォンなんていらない理由

SAKURAKO listens to music with BOSE.

先日の記事でも紹介しましたが、私はハイレゾ音源を聴く際はハイレゾ帯域をカバーするファイル形式を扱える中華DAP(デジタルオーディオプレイヤー、要はiPadみたいな音楽再生専用機)FiiO X1と、ハイレゾ認証こそ受けていませんが、日本オーディオ協会の定義するハイレゾ基準を満たした中華イヤフォンKZ ZAXを用いています。

 

KZ ZAX - 16 Unit Hybrid Technology Earphone.

ただ、タイトルの通り、ハイレゾ認証を受けたイヤフォンは不要と考えます。むしろイヤフォン(最近ではBluetoothイヤフォン)にまでハイレゾ認証を与える行為そのものが、この認証制度を眉唾モノにする危険な行為とさえ考えます。

なぜなら「イヤフォンにはハイレゾで期待する効果が得られない」と考えるためです。私がKZ ZAXを用いるのは純粋に安価で高性能なイヤフォンだと考えるためであり、ハイレゾ認証基準を参考にした為ではありません。


人間の可聴帯域を超えた音を鳴らすハイレゾの効果については賛否ありますが、ハイレゾ派が拠り所とする理論として用いられるものに「ハイパーソニック・エフェクト」があります。ハイレゾを語るには、この理論を理解する必要があると考えます。

 

 

大橋 力(おおはしつとむ)教授(現・国際科学振興財団情報環境研究所所長)らが長年研究をするハイパーソニック・エフェクトを簡潔に表すと「超高周波を含む音による基幹脳の活性化とそれを起点にした波及効果」。

音として人が耳で認識できる帯域を超えた高い音が与える影響に関するこの研究は、1994年の論文「可聴域上限をこえる高周波の生理的・心理的効果(ハイパーソニック・エフェクト)について」まで遡ります。

大橋教授らは2017年、これ迄の研究成果の集大成とも言える著書「ハイパーソニック・エフェクト」(岩波書店)を出版、昨今のハイレゾ論争に大きな役割を果たします。

 

大橋教授は「山城祥二」名義で自ら主催する民族音楽を中心とした集団「芸能山城組」を率いています。アニメ映画「AKIRA」の音楽を担当した事で世界的な知名度を獲得した芸能山城組ですが、彼らがAKIRAの”前”に手がけたアルバム「輪廻交響楽」において、大橋教授はレコードLP盤とCD盤での音の違和感(CD盤の音に満足できなかった事)に科学者らしいアプローチを試みます。

大橋教授はLP盤とCD盤の比較により、人間が聴き取れない「高複雑性超高周波」と、耳で聴き取れる「可聴音」との“相互作用”が生じている(=可聴音だけでも、高周波だけでもダメでその両方が合わさって作用する)事を発見。LP盤のほうが優れた音に聴こえたのは、LPの仕様上&理論上、可聴帯域以上の高周波も収めることができる為である、との結論に達します。

 

Spring Piano Recital 2021.

少し話が逸れますが、大橋教授は古くから西洋に伝わり、いま尚も音楽世界の中心たる五線譜による音の再現(可逆的等価変換律)に大きな疑問を持ちます。

なぜなら五線譜の世界はピアノで再現できる音域しかカバーしておらず(ピアノが出す高周波は最大10kHz程。ピアノが最大88鍵な理由は、人間が音程を聴き分けられる20〜4kHzであり、全88鍵で賄える為)これを超える音域を奏でる楽器、例えばインドネシアのガムランで用いられる楽器などは100kHz程度まであり「とても五線譜では等価的に扱えない」と考えた為でした。

 

大橋教授らは「輪廻交響楽」の経験から感じた違和感をハイパーソニックエフェクトとして立証する事と並行し、自らハイパーハイレゾ盤として2015年に「輪廻交響楽」を、続く2016年には映画AKIRAサウンドトラックのハイパーハイレゾ盤「Symphonic Suite AKIRA 2016」をリリースし、高音質オーディオマニアから高い評価を受けます。

 

・・・ここで1つ疑問なのは、果たして「輪廻交響楽」のような古い楽曲(我が家にもある初版CD盤VDR-1200のリリースは1986年)においてハイレゾ要件を満たすような元音源が存在するのだろうか?というもの。

芸能山城組の一部楽曲には、使用機材など記載されていたりしますが、この「輪廻交響楽」においては特に記載もなく、青山のビクタースタジオで収録されたこと、そして担当したレコーディングエンジニアが高田英男氏である事以外の詳細な情報がありません。

要は、ハイレゾ盤たるには、その収録過程のマイクやレコーダー性能においても、ハイレゾ要件を満たす機材で収録する必要があるのでは、という疑問です。

 

これに対する答えとして、2014年からビクターが開始(し、2017年にクローズ)したハイレゾ音楽配信サービスでの発表会にヒントがありました。いわく「CD以降、アナログマスターは保管していない」「44.1kHzのCD音源も基本波を元にした倍音で復元」して96kHzのハイレゾ音源化する、というもの。

要は収録されていない無い音も倍音として算出して復元すると共に、その過程において音響のプロが補正するので完璧!というもの。この言葉を信じるかは別ですが、なんとも心にザラつくものが残るのは何故でしょうか・・・

  

とまれ、晴れてハイレゾ化された過去の名盤ですが、これをイヤフォンで聴いてもハイパーソニックエフェクトは体感できません。何故なら大橋教授もハイパーソニック・エフェクトは耳で聴くものでは無く、体表面の皮膚で感じるものである、と前述の著書で述べているためです。

実際、「Symphonic Suite AKIRA 2016」のマスタリングを担当した放送大学の仁科エミ教授(※もともと東大山城組連合に所属している同組員。大橋教授の研究論文にも常に研究者の一人として名前が挙がっている人物)も、インタビューにおいて「イヤホンで聴いた場合も効果がありません」と、ハイパーソニックエフェクトはイヤフォンで聴いても意味が無いことを明確に述べています。

 

・・・と、言う事は・・・ハイレゾ認証を受けたイヤフォンには、どのような価値があるのでしょう。

「可聴帯域を超えた40kHz以上の音が出ます、だけれども人は20kHz程度までしか(そして私のような中年は既に15kHz程度までしか)聴き取れません、でもハイレゾは高周波を奏でることができるので、それはハイパーソニック・エフェクトを誘発し、音がより心地よく聴こえます」と、ハイパーソニック・エフェクトで理論武装しても当の研究者が「いや、それは耳じゃなくて体で感じるものだから」と言っていますからね(苦笑)。

 

そんな訳で、長くなりましたが、ここで再び。ハイレゾ認証イヤフォンなんていらない。好きな音を奏でてくれるイヤフォンで音楽を愉しめば良いのでしょうね。〔了〕