我が名はBOSE 800、大勢であるが故に。

Cafe倫敦館に置かれたBOSE 800 PROFESSIONAL LOUDSPEAKER SYSTEM.

朝食に札幌市中心部にある老舗「Cafe倫敦館」へ行きました。


 

この店の1階には昔からBOSEの大きな五角形状のスピーカーが設置されていますが、いままで遠目に眺めて「BOSE 901」と思い込んでいました。

この日、初めて近くに座ってよく見ると正しくは「BOSE 800」という見慣れないPA用(Public Address:公衆用=ホールやイベント会場用)大型スピーカーであることに気づきます。

このスピーカーは、片側だけで合計8個ものユニットがあり、左右に設置すると目の前に16個(!)ものユニットが並びます。

BOSE800のスピーカーユニットの並び

こうしたサランネットを外したユニット数の多い姿を見ると、映画ガメラ2に出てくる小さな集合体が気持ち悪い「怪獣レギオン」を思い出します映画では新約聖書を引用し「我が名はレギオン。我々は、大勢であるがゆえに」と印象的に語られるレギオンですが、集合体恐怖症な私にはBOSEの多ユニット構成も苦手な外観です。

   

話を「BOSE 800」に戻すと、この商品はネット検索しても殆ど情報が無く、BOSE公式サイトの社史にも言及がありません。いつ頃リリースされたモデルなのかイマイチ明確では無いのですが、私が知るBOSEの800番台スピーカーである後継モデル「BOSE 802」(1972年)や「BOSE 802 II」(1984年)の発売時期から推測するに、この「BOSE 800」は1960年代末〜1970年代初め頃のリリースではないか?と思われます。

※海外のサイトを探しても断片的にしか情報がなく、あるサイトでは「Does anyone have any info on this series(どなたか、このシリーズについて情報ありませんか?)」の問いに対し、「I used them quite a lot back in the Stone Age. (石器時代の頃に、よく使っていたな)」という、定番ジョークな回答くらいしか見つかりません(笑)。

  

この「BOSE 800」はBOSEにしては珍しいことに、エンクロージャー(スピーカーの筐体)が木を組み合わせた木製で構成されています。

普通のスピーカーでは木製であることは当たり前ですが、1980年代以降のBOSEといえばペリカンケースのような、強化プラスチック樹脂を用いた射出一体成型によるモノコック(複数パーツの張り合わせでは無い単体構造)なエンクロージャー(スピーカーの箱)が特徴でもあるため、いまあらためて見ると新鮮です。

BOSE800は持ち運びを想定したボックス型になっています

また、イベント等での持ち運びを意識したと思われ、蓋状のカバーを装着すると、まるで海賊の宝箱のような形状になるようです。

 

Cafe倫敦館に置かれたBOSE 800 PROFESSIONAL LOUDSPEAKER SYSTEM.

BOSEのPA用スピーカーといえば概ね専用のコントローラー(アクティブ・イコライザー:上記写真でスピーカーの上に載っている小さな箱)を介して接続する必要があります。

つまり、接続方法としては、CDプレイヤー>BOSE専用コントローラー>パワーアンプ>BOSEスピーカー等のような独特な組み合わせが必要となります(実際この「BOSE 800」の背面を覗き込むと、わざわざ「Must be used with MODEL 800 ACTIVE EQUALIZER.」と注意書きが目立つところに記載されています)。

その「BOSE 800 専用コントローラー」について興味深い記載を見つけました

BOSE800の周波数特性

何処かの誰かがBOSE 800専用コントローラーのイコライザー周波数特性を示した(と思われる)シートですが、この内容を信じるとすると、高域と低域をエグい程に持ち上げているのが分かります(実際よくBOSEがやる手法です)。

つまり「BOSE 800」は、このイコライザーを介することでフラットな特性になる、という力技なスピーカーであることが分かります(同様のアプローチはBOSEの他モデルでもよく見られる、同社お得意の手法です)。

 

これはBOSEのスピーカー全般に言えることですが、BOSEのアプローチとしてはユニット単体でスピーカー特性の追求は行わずに、こうした専用コントローラーのようなイコライザーを外付けにしたり、もしくはスピーカー内部にイコライザー回路を仕込んでしまうことで、スピーカー出力の「味付け」を行います。

BOSEとしては最終的に人間の耳に届く音がどれだけ聴きやすく心地よいかを音響工学的で科学的な観点からチューニングを行うことこそが魅力であり特徴なのですが、それ故にピュアオーディオ愛好家からは否定的に見られてしまう理由でもある訳です。

  

Cafe 倫敦館.

さて、この「BOSE 800」がどのような音色を奏でてくれていたか、というと・・・残念ながら店内BGMは天井に吊り下げられた小さなBOSE 101MMが奏でており、BOSE 800の音を聴くことはできませんでした(そういえば、この店いつも天井の101MMが鳴っていたような気も・・・)。


因みに、店内に流れていたのは作曲・ヨハン・シュトラウス1世「ラデツキー行進曲 Op.228」(1848年)。・・・そういば、昔、この店に来てた頃はジャズが流れていた印象があるけれども、今年になって15年ぶりに、また通い始めましたが聴くのはクラシック曲。最近はマスターの趣向もクラシックな気分なのでしょうかね。

かく言う私も、ここ10年程すっかりジャズは聴かなくなり、ポスト・クラシカルなピアノ曲がメインに。おかげでスピーカーもBOSEではなく、ヤマハがメインになりました。人の趣味趣向なんてものは時代と共に移りゆく、だから飽きずに面白いのでしょうね。〔了〕

書籍「なぜボーズのスピーカーは人の心を揺さぶるのか?」の表紙