イサムノグチ、オンファロスの妖気
札幌郊外にあるモエレ沼公園。世界的な芸術家イサムノグチ氏が設計した美しい公園です。シンボリックなガラスのピラミッド内に「オンファロス」と呼ばれる石の彫刻が鎮座しています。
2013年に市内の企業から寄贈されたこのオンファロスは、イサムノグチ氏が最晩年に手掛けた最後の作品と言われる貴重な品。
実は私、このオンファロスに25年程前に遭遇する機会がありました。当時、大学生だった私が就職活動で訪問した企業の社屋内に設置されていたのです。
その企業とは今は亡き「db-SOFT(デービーソフト)」。古くはゲームソフト「フラッピー」等で名を上げた札幌のベンチャー企業です。
db-SOFTは札幌のハイテク企業を代表するB.U.G社(現・ビー・ユー・ジーDMG森精機)の先進的な社屋の一部に”間借り”していました(その為、正しくはオンファロスはB.U.Gのものだった訳ですが)。
ハイテク企業への就職を希望していた私は、db-SOFTとあわせてB.U.Gにも興味があったので、B.U.Gの偵察(?)もかねてdb-SOFTの会社見学に参加。
オンファロスは社屋の入口を抜けた吹き抜けの真ん中に鎮座しており、異様な雰囲気と存在感を醸し出していたのを記憶しています。
社屋を進むと、食堂やラウンジ、更にはテニスコート等もあり、まるで米国シリコンバレーのハイテク企業のよう。聞くところによると、イサムノグチ氏はB.U.G社の創業メンバーと親交があり、社屋完成記念にあのオンファロスが贈られたそうです。
社屋内の周囲を見わたすと、如何にも生真面目そうな理系大学院卒っぽい従業員たちが黙々とプログラミングをしている姿に圧倒されますが、その人たちは皆B.U.Gの従業員。
その横に手狭に陣取るdb-SOFTの従業員たちは、どちらかというと朗らかでニコニコした小太りのパソコン少年のような装い。「たまにここで寝てるんだよねw」と苦笑しながら机の下に用意された寝床を指差す姿を今でも覚えています。
結局、学生だった私はdb-SOFTには応募せず、縁は無かったのですが、当時既に経営は危険水域にあったようで、数年後には実質的な企業活動を停止しています。
またイサムノグチ氏からオンファロスを贈られたB.U.G当時の社長・服部裕之氏は同時期にJK援交で逮捕。その後、B.U.Gに復帰や別企業の立ち上げを行うも、闘病生活の末、2018年に61歳で死去されています。
また、イサムノグチ氏自身もオンファロスの完成から僅か2ヶ月後に心不全で急逝。
なんだかそうした背景を知りながら遺作オンファロスを眺めると不思議な妖気を感じてしまうのは気のせいでしょうか・・・〔了〕