中華オーディオS.M.S.Lの提案する音色が心地よい件

S.M.S.L. High-Resolution Power Amplifier “DA-8S”.

中華オーディオメーカーS.M.S.Lが提案する音色「SDB (S.M.S.L Dynamic Bass)」を私はとても気に入っています。今回は、そんなS.M.S.LとSDBに関するお話し。

 

先日の記事で述べましたが、オーディオにおけるアンプの性能差(アンプの違いによる音の差)は、いまや極めて小さな誤差範囲に収斂されてきたと考えます。これは技術的な成長曲線が"なだらか"になる=円熟を迎えた喜ばしい状況である一方で、メーカーにとっては価格の差に見合う音質の差やブランドの色を出すのが難しい状況と言えます。

 

S.M.S.L. High-Resolution Power Amplifier “DA-8S”.

そうした中、ユニークなアプローチをしている企業があります。2009年に中国・深圳で誕生した新興オーディオ企業「S.M.S.L」(Shuang Mu San Lin)社は、オリジナルのDACやアンプなどを積極的に開発。ミニマルなデザインに本格的なオーディオパーツを取り入れる等、いわゆる数多あるChi-Fi(中華オーディオ)の中では一線を画する存在として注目を集めます。

S.M.S.Lが日本を始めとした先進各国に向けて販売を開始したのは2017年。いまに至る僅か4年ほどの間に、世界中のオーディオファンがネット上で絶賛のレビューをするまでに急成長。安かろう悪かろうなChi-Fiのイメージを塗り替えたブランドと言えます。

 

そんなS.M.S.Lよるユニークなアプローチとは、同社が独自開発した「SDB (S.M.S.L Dynamic Bass)」と名付けられたアンプの音質調整機能です。S.M.S.Lの説明によれば、高音・低音の調整機能で、様々なスピーカーや音楽との最適化を行う特許技術との事。

 

S.M.S.L. High-Resolution Power Amplifier “DA-8S”.

私はS.M.S.L.のデジタルアンプ「DA-8S」を愛用していますが、このSDBをONにして聴くと、音にメリハリが効くのは勿論ですが、他にも奥行きと広がりも感じられるようになります。単なるラウドネスコントロール(小音量時に低音域と高音域を増強して音のバランスよく聴こえるよう補正する回路)の枠を超えた、不思議な音楽体験でした。

また、音楽ソースを選ばないのも特徴で、SDBをONにするだけで前述のような効果が体感できます。私はよくインターネットラジオ「SomaFM」を聴くのですが、圧縮された音楽ソースでも高い解像感と音の奥行き・広がりが感じられるので、今ではSDBを気に入って常にONにしています。

元来、私はこの類の音質調整を好まないタイプなので、イコライザー機能の類はOFFにしてフラットな音を聴いていたのですが、このDA-8SでSDBを体験してからは、すっかりSDBを介した音に魅了されてしまいました。SDBをオフにしたり、SDB非搭載な他のアンプで音楽を聴くと、なんだか音が物足りなく感じてしまう程に「SDB中毒」となっています。

 

S.M.S.L. High-Resolution Power Amplifier “DA-8S”.

SDBに関する詳しい説明が見つけられないため、これが単なるプリセットされたイコライザー調整値でしかないのか、それとも入力される音楽信号の特性をリアルタイムで演算処理にて最適化した値に自動調整するのもなのかは、正直よく分かりませんが(正直、そこまで複雑な処理をされている感はしませんが)単なるイコライザーやラウドネスコントロールにしては、満遍なく様々な音楽ジャンル/音楽ソースに馴染んでいる点が気になります。

※2023/3/13追記 ↓ 単なるプリセットEQのようです。それにしては良い音ですね。

 

とは言えS.M.S.Lの説明も簡素なもので「MP3やストリーミング配信といった圧縮された音源であっても、その楽曲が持つダイナミクスを復元する機能」位の説明しかなく、いまいち詳しい技術的な背景とかが見えて来ません。

 

※下記サイトの口コミ情報では、SDBをONにすると低域を約3dB・高域を約2dBブーストするラウドネスコントロールのようなもので、音の知覚の変化をバランスさせるフィルターである、と書かれていますね。

 

1980〜90年代のオーディオには「アリーナ」「コンサートホール」等、様々なイコライザーのプリセットが喧伝されていましたが(現在でもスマホ音楽アプリに「ロック」や「ジャズ」等のイコライザー機能がプリセットされていますが)どれもイマイチであったり、音楽ジャンルに合わせて都度切り替えが必要であったり、、、と中々に厄介であまり使われない機能というのが正直な印象です。

反面、SDBはどんな楽曲/ソースでも常にONにしておいても違和感なく聴きやすい音色に変わるのが大きな違いと私は感じました。

 

SDBは(私の持つデジタルアンプ以外にも)S.M.S.Lのリリースするスピーカー用アンプからヘッドフォン用アンプに至るまで標準的に採用されている機能となっています。

こうしたアプローチは、S.M.S.L自身が「我々の考える心地よい音色はコレだ!」とユーザー側へ提案しているのであり、冒頭に述べたような純粋な性能差による音質の差が出しにくくなっている昨今において「S.M.S.Lの音」として差別化を図ろうとする意欲的な取り組みと考えます。


かつてオーディオ機器選びの際の最も重要な要素の1つは「ブランド」でしたが、御三家(山水、トリオ、パイオニア)が市場から消え去ったように、もはやブランドに頼る時代は(一部のン百万円する高級オーディオを除いて)終わったのでしょうね。

中華オーディオメーカー、S.M.S.Lに今後も注目していきたく考えます。〔了〕