今更だけど音楽CDって凄いと思うの。
音楽を聴くスタイル、様々あると考えますが、皆さんが最後に「CDで音楽を聴いた」のはいつでしょう。意外に思い出せないという位に「CDで聴く」機会は激減していると考えます。
実は私、ここ最近は「CDで音楽を聴く」スタイルに価値を見出し、ハマっております。
音楽ストリーミング全盛の昨今、若い世代を中心にビニール盤(アナログレコード)やカセットテープと云ったアナログ再生は人気上昇中と聞きますが、CD離れは加速するばかり。
全米レコード協会(RIAA)では「U.S. recorded music revenues by format.」(米国フォーマット別の音楽売上高)が発表されていますが、それによるとCDは2000年にピークを迎え、その後は急速に落ち込んでいるのが分かります。
かように衰退著しいCDですが、私は最近になってCDでの音楽鑑賞に特別な価値を感じるようになりました。それは「安定した音質の良さ」です。
昨今の音楽ストリーミングでは高音質ハイレゾ配信で楽曲を提供するサービスもありますが(元来、私はハイレゾに懐疑的ですが)音楽ストリーミングは不意に原因不明の「音切れ」等が生じることがあります。
音切れの発生自体は稀であるものの、ときに再生端末側のハードに起因する問題、ときに再生アプリの問題、ときにネットワーク速度の問題・・・等々、その発生原因は様々。予期せぬ不意な音切れは(何故かお気に入りの曲を心地良く聴いている際に生じるもので)実に興を削がれます。
加えて、マイナー&レアでマニアックな楽曲は、そもそも音楽ストリーミングにはラインナップが無かったりもします。
例えば私が大好きなYMOのライブアルバム「FAKER HOLIC YMO WORLD TOUR LIVE」は音楽ストリーミング各社では配信されておらず、其れ故に上記のように高値で取引されている始末。
幸い私は30年以上前にCDを購入していたのですが、今でもCDプレイヤーで最高の音質を奏でてくれます。たかが数千円のCDがこれほど長期間に渡って安定した音質を提供してくれる「信頼性」の面に改めて価値を感じる訳です。
因みにあまり知られていませんが、高速で行われる音楽CDのデータ読み込みは結構エラーが多いです。音楽CD(CD-DA)の規格(通称レッドブック)では、当初からそうした読み取り時のエラーも折り込み済みで、強力なエラー訂正機能が標準で備わっている為、安定した高音質を担保できている訳ですね。
「CIRC(サーク)」と呼ばれるこのエラー訂正機能は”二段階”も用意されており(盤面に傷が付いている、CDプレイヤーのレーザー装置が弱っている、等の物理的な問題が無い限り)ほぼ完全なエラー訂正を実現してくれます。
ビニール盤のように再生時にハウリング(スピーカーから発する音の振幅がレコード針に循環されることで生じる発振現象)の心配もなく、デジタル信号だから繰り返し常に「安定した再生」をエラー訂正によって「完全な形」で再現可能な音楽CDって凄いことだ!と今更ながら気付かされた訳です。
我が家のメインを張るCDプレイヤーはDENON製「DCD-755AE」(上記写真の中段)。2006年に発売され、定価45,150円(当時)と普及価格帯ながら様々なグランプリで受賞をした名機。音楽CDプレイヤーの音質は2000年代初頭に出た3〜5万円の普及機で完成の域に達したと私は考えます。
「音楽CD」(CD-DA)の歴史は遡ること40年以上も前の1982年に発売されたビリー・ジョエル「52nd Street」(オリジナルのビニール盤リリースは1978年)から始まった古い媒体です。
CD発売当初こそビニール盤に比べ「音が悪い」「デジタル臭い」等と酷評を受けましたが、これは未だデジタルへの対応が不完全だったレコーディング環境やエンジニア側の問題であったり、聴き手側であるユーザー側も繊細な音に不慣れであった為に生じた違和感等、相互に生じた不幸なミスマッチでした。
反面、振り返ってみると音楽用途の媒体としての規格であったり、再生装置としてのCDプレイヤー性能については、既に40年前の登場時点で完璧に近かったとも言われています。
言うならば、世界最初のCDプレイヤーの1つである「SONY CDP-101」(1982年)でさえ通常の音楽鑑賞に何ら問題が無い(最新プレイヤーやPC上でのロスレス音源と有意な差を感じない)レベルにあるのもまた真実です。
音楽CDはその後、規格上の迷走を辿ります。DVD規格を発展させ高音質&多チャンネル音楽用途とした「DVD-Audio」と、従来の音楽CDの延長線上で高音質化と多チャンネル化を実現した「SA-CD」(スーパーオーディオCD)規格がポスト音楽CDとして1999年に登場しますが、そのいずれも普及どこかフォーマットの存在さえ一般的には知られる事なく消えて行きました。
当時を思い出すと、専ら話題は音楽CDのデジタルコピーに関する問題が議論の中心であって、高音質化に関心を寄せる人は少なかった印象です。
実際、北米では2001年から、日本でも2002年から悪名高き「コピーコントロールCD(CCCD)」なる著作権対策CDが音楽市場を蹂躙しはじめます。CCCDは音楽CDプレイターが備えたエラー訂正を逆手に取り、わざと間違ったエラー訂正符号を送ることで、CDプレイヤーによる再生時は欠損分を補完する機能を用いて再生させる荒技であった為、音質的な劣化を伴ったり、対応しないCDプレイヤーが出たりする等、一般的な消費者の音楽再生は混乱を極めます。
結局、それに嫌気をさしたのかCCCDの登場以降、これまで右肩上がりで成長してきた音楽CD市場に急ブレーキが掛かります。
加えて、当時はiPod(2001年)や、iTunes Music Store(2003年)の登場といった「ポストCD」たる受け皿の登場によって”我が世の春”を極めていた音楽CDの市場は信じられないほど一気に瓦解していきます。
そして2024年。今や「CDで音楽を聴く」行為は、公衆電話で通話をする並に「変わった人の行動」に成り下がってしまったようです。
反面、音楽CDは過去40年に渡る膨大なライブラリーから、極めて低コストで入手ができる媒体です。ブックオフ等の中古ショップに行くと、遥か先の棚まで(Apple Musicにはラインナップされていないようなマイナーな曲も含めて)ほぼ二束三文の値段で売られています。
しかも、デジタル収録されたCDは劣化なく発売当時のままの音質を保ってくれているのですから(繰り返しになりますが)やっぱりこれって「凄いこと」だと思う訳ですよ。ビニール盤やカセットテープでは経年による音質劣化は避けられないですし、音楽ストリーミングであれば、マイナー曲はそもそもラインナップに無かったりします。
それが音楽CDなら、いつでも発売当時の音質のまま・・・いや、CDプレイヤーやDAC、アンプ、スピーカーらの性能向上によって、昔より良い音で再生できるのですからね。
音楽ストリーミングやビニール盤に押され、いまは未だ復活の兆しを(微塵も)感じない音楽CDですが、遠く無い将来に「もしかしてCDってスゴい媒体なんじゃない?」と見直される日が来ると感じている昨今です。〔了〕