PCM録音機としてのソニー「EV-S900」

It's a SONY? Yes! Now that's SONY!

♪ 僕のあだ名を〜 知っているかい〜 ♪

♪ EV-S900と 言うんだぜ〜 ♪

♪ 製造終了から 早31年 ♪

♪ ギヤ欠け破損にゃ 慣れたけど〜 ♪

♪ やっぱり画質は 眠たいなぁ〜 ♪ 

山田太郎の「新聞少年」(1965 年)の替え歌といっても、もう通用しない古(いにしえ)のネタ。

 

上記の画像は古き良きSONYが1989年にリリースしたHi8規格のビデオデッキ「EV-S900」(当時の定価245,000円+税3%)です。Hi8は、いわゆる「8ミリビデオ」と呼ばれた規格の上位版で、VHSビデオで言うところのS-VHSに相当します。1989〜1991年3月までの約3年弱製造されました。

 

SONY EV-S900

私が購入したのは製造終了から数年経た1993〜1994年頃。ビデオデッキとしては当時、既にVHS/S-VHSが市場シェアを制圧しており、S-VHS専用テープも安価な値段で出回っていました。そんな時に、わざわざ違う規格のHi8ビデオデッキを購入したのは、ビデオ用途では無く「オーディオ用途」が主たる理由でした。

8ミリビデオ規格には、デジタルマルチトラックPCMという機能がありました。サンプリング周波数31.5kHz・量子化数8ビットでPCM(=パルス符号変調。つまり、アナログ信号を時間軸に細かく区切ってデジタル化していく方式)録音ができます。。

さらにユニークな事に、8ミリテープ幅の全てをオーディオトラックとして用いる機能があり(=映像は無し)、この場合、左右2chの最大6トラックが使えました。つまり120分のテープをLPモード(2倍の長時間録画モード)で記録すると、120分×2倍×6トラック=計24時間もの長時間録音が出来た訳です。

結局、このデジタルマルチトラック方式は、ソニーのEV-S500(8ミリ)、EV-S600(8ミリ)、EV-S800(8ミリ)、EV-S900(Hi8)、東芝のE-800BS(Hi8)の僅か5機種でしか採用されなかった極めてマイナーな機能でした。高画質録画ができるHi8規格に限っていえば、僅か2機種という有様。

 

既にデジタル録音機として「DAT」がありましたが、本体価格もテープ価格も非常に高価であり、むしろ聴きたい楽曲すべてをCDで買い揃えた方が安上がり(!)とも言える状態でした。その為、DATと比較して8ミリビデオを用いたデジタル録音方式は、私の目にはとてもコスパの良い選択に思えたことや、計24時間分の録音が可能なマルチトラック方式が魅力的に映ったのです。

 

当時の私は衛星デジタル音楽放送「St.GIGA」(セント・ギガ)に夢中でした。1991年にスタートした衛星放送を用いたラジオ局は24時間ノンストップで音楽を流し続ける画期的な放送局でした。このSt.GIGAの長時間録音に8ミリビデオは最適だった訳です。これに気づいた私は製造終了して安価になっていたEV-S900を購入します(それでも今思えばバカらしい程の高い値段でした)。

St.GIGAをEV-S900で録音し、EV-S900をオーディオ(PanasonicのSS-E10)に繋いで堪能する日々は、正に夢のようでした・・・が、どうも思ったのと「違う」ことに程なく気付かされます。EV-S900で録音したSt.GIGAは音質はそこそこ良いのですが、どうにも”音の広がり”に欠ける気がするのです。

St.GIGAは32kHz/16bitのデジタル放送でした。EV-S900のPCMデジタル録音は31.5kHz/8ビットでの録音が可能で、当時の私にはこの差は些細な事のように感じました(もっと正確に言うと当時のカタログにはサンプリング周波数こそ記載されているものの、量子化ビット数の記載は無く、当時の専門誌に書かれた情報で後に知る事となったのです)。数値的にはスペックは似通っているのに、ナゼ音の感じ方に結構な違いが出るのだろう?と疑問でした。でも実際には雲泥の差があった訳です。

EV-S900の量子化数が8ビットという事は、アナログとデジタルの変換時の信号の振幅の大きさを2の8乗=256段階で記録できることを意味します。一方のSt.GIGAは16ビットですから、計算すると2の16乗=65,536段階と、正に桁違いに性能差がある訳です。他にも、幾らPCM録音とは言え、音質の良さを決めるのはアナログとデジタルの変換部分(A/Dコンバーター、D/Aコンバーター)そして、最終的な出力を支えるアナログ部分が何よりの肝であるという点です。

EV-S900を介した音は、確かに従来のカセットテープに比べるとレベルの違う高音質ではありましたが、CDは勿論、St.GIGAの放送と比較しても、なにか、、、、こう、、、引っかかる点があったのです。こういう粗は一度気になるとそこばかり目につくのが困ったもの。

 

うーん、やっぱDAT買うしか無いのかなぁ、、、など悶々としていたら、当のSt.GIGAが経営不振で1995年頃から徐々に番組構成が変わってしまい録音すべき目的が無くなってしまいます。

それからの日々は、録音したSt.GIGAのテープを言葉通り、擦り切れるまで聴いた挙句、フロントローディング機構のギア欠けによりテープ出し入れ時に絡まって貴重な録音テープを幾つかダメにしたり、と云った事態を繰り返していました。

しばらく軽微なメカニカルな不調を繰り返しつつも、1999年3月に修理対応期間も満了を迎えると知って、その直前にソニーのサービスセンターに持ち込みベルト類など総点検&リフレッシュして貰ったのは今となっては良い思い出です。

その後、今日に至るまで大きな不調もなく稼働しているEV-S900。正確に言うなら、録り貯めたSt.GIGAのテープ側が保管場所の問題でテープの伸びやカビ等で使えなくなってしまった事から、長らくEV-S900は部屋の飾りとなっていました。まさかデッキ本体よりも早くテープ側がダメになるとは想定外。

  

St.GIGA的なモノを失った穴を埋めてくれたのはインターネットラジオでした。私は2004年から「SomaFM」を聴くようになり、そして正にこの記事を書いている今この瞬間も聴いています。


すっかり使用機会が激減したEV-S900ですが、その重厚で端正な面持ちは最高の眺め。今後も変わらずリビングに鎮座し続けて貰います。〔了〕