不思議な体験、波動スピーカー。
昼食に訪れたカフェで不思議な体験をしました。店内にBGMが流れているのですが、スピーカーの位置が分からないのです。
流れていた曲は弦楽器奏者のクイヴィーン・オラハレイク氏とピアノ奏者のトーマス・バートレット氏が組んだ2019年のアルバム「Caoimhin O Raghallaigh & Thomas Bartlett」(アルバム名はそのまま両者の名前から)。やや陰鬱な弦楽器と繊細なピアノが織り混じった曲です。
当初は天井から音が降ってくる印象でしたが、次の曲では奥の壁面から音が聴こえてきます。周囲を見渡すもスピーカーの姿は見えず。
まったく何処で鳴っているのかスピーカーの位置が掴めなかたのですが、帰り際に見ると下階の天井に「波動スピーカー」(M’s system社製「MS1001クラシック」)が吊り下げられているではありませんか(上記写真参照)。
そのカフェは1階と2階に分かれており、中央が吹き抜け構造となっています。確かに下階の音も上階には届くとはいえ、まさか下階から鳴っているとは思えない音色の響き方だったので衝撃的でした。
「波動スピーカー」とは、1本の筒状の筐体左右にスピーカーが収められた奇妙な形をしています。いわゆる無指向性スピーカーとは異なり、指向性はあるものの、横向きに付けられたスピーカーの音は周囲の壁面に届き、そこからの反射残響音により音を奏でるという実に独特な仕組みのスピーカーとなっています。
波動スピーカーの原理は各種サイトに点在していますのでここでは細かく触れません(自作されている方もチラホラ見かけますし、かつてはWikipediaにも記事があったようですが現在は削除されているので詳しく知りたい方はWebアーカイブを参照ください)。
スピーカーユニットはフォステクス製のフルレンジを使っているようです。そこから反響した音が聴こえるに過ぎない為、いわゆるオーディオマニアから波動スピーカーは無視される存在です。
また、発売元のM’s system社にも売り方に少なからず問題があるようにも感じます。このスピーカーの原理的なものを理詰めでの説明を積極的に避ける傾向にあります。
「これはスピーカーではなく楽器」「アトリエで職人が丁寧に作っている」「このスピーカーは人々の心の中にある不平、不満、不安を取り除くために生まれてきた」等、とかくエモーショナルに訴えるばかりで、なぜこのスピーカーの音が良いのかを説明しません。また「波動」という些かスピチュアルな表現にも眉をひそめたくもなります。
故にネット上の感想をみても「素晴らしい音だ!」と絶賛する人もいれば否定的な人まで様々。これ程までに評価が分かれるスピーカーというのも中々に珍しいものです。
私が波動スピーカーの音を聴くのはこれが初めてではありません。
15年程前に昼はカフェ、夜はバーになる当時、近所にあった飲食店でも波動スピーカーが置かれていました。その時はジャズを聴いたのですが、その時は目の前に設置された状態で聴いたので「変わった鳴り方のするスピーカーだな」程度の感想しかありませんでした。
その時の印象と今回の印象は大きく異なり、より広がりのある「澄んだ音」に聴こえました。曲調の違いもあるでしょうが、より音が立体的に聴こえたのが印象的です。
以前に聴いた店は木造古民家をベースとしたカフェでしたが、今回訪れた店は札幌軟石と呼ばれる凝灰岩で造られた石づくりの建物であったので、もしかしたら反射音が違っていたのかも知れませんね。
少なくとも、反射音とは言え、下階に設置されたスピーカーから鳴っている音とは思えない(なにせ天井や正面の壁から鳴っていると思っていた程ですからね)音色でしたので、波動スピーカーへの興味がとても高まりました。
純粋なHi-Fiとしての再生とは異なるベクトルで音を愉しむ波動スピーカー、「そのうち買うリスト」に追加しておきました。〔了〕