シーメンス同軸スピーカーと逆転クオリア
某カフェにて後面開放型(背面開放型)フロアスピーカーの音色を聴く機会がありました。
このスピーカー、モデル名などの詳細は不明ですが、ドイツSIEMENS(シーメンス)社の同軸スピーカーで1980年代製と思われます。後面開放型スピーカーは、その名が示すようにスピーカーの後面を覆う板が無いタイプのもので、オルタナティブな珍しいタイプです。
後面開放型はスピーカーの進化過程においてあくまで通過点であった訳ですが、自然な音の広がりを評価する一部の好事家によって現在でも愛されています。
また、高域を担うツイーターと低域を担うウーハーが同じ位置に重ねて配置されている同軸スピーカーは反射音を含めて聴き手に対しフラットな特性の音を届ける方法として、これまた一部の好事家に愛される構造です。
これら「後面開放型」と「同軸スピーカー」の両方を採用しているのが冒頭の画像にあるシーメンス製スピーカーであり、ナンともマニアックな構成だと判ります。
(アンプやプレイヤーは店舗のバックヤードに設置されているようで、はっきりは見え無かったものの、一般的なコンデンサーアンプとCDプレイヤーが繋がれているようでした)
店内を見渡すと壁が特徴的な凹凸をしているのが分かります。これらは定在波やフラッターエコーを抑える為の施しのようにも見えます。そう考えると店内全体がリスニングルームに思えてきました。
さて、気になる音色について。澄んだ中高音が”点”ではなく”面”で迫ってくるのが印象的な上、艶やかで円やかな高音が心地よく響きました。反面、低音は拍子抜けする程に物足りなさを感じます。
大きなフロアスピーカーなので豊かな低音をイメージしたのですが期待とは異なりました。得てして後面開放型は抜けの良い中高域が愉しめる一方、低音が出難いようです。冷蔵室のような堂々とした大きさのスピーカー筐体から流れる音色とのギャップに戸惑います。
一緒に聴いていた妻は「低音が殆ど感じられない事で却って聴きやすい」との感想を持っていました。カフェの客層(若い女性客が9割以上)を考えると、深く染み渡るように響く低音よりも、軽やかに澄んだ中高域が円やかに流れるのが良いのかも知れませんね。
同じスピーカーで、同じ曲を、同じ距離で聴いていても妻と私では全く異なる”質感”を認識していたのは逆転クオリア的で、オーディオ世界の深淵のようでもあると感じた次第です。〔了〕