FDレンズとNewFDレンズ、メカニカルを愉しむ
またまた古いキヤノン製カメラのお話し。今回はFDレンズ(1970〜79年)、NewFDレンズ(1979〜1989年)について。
FDレンズと、その改良版であるNewFDレンズを合わせると約20年弱続いたキヤノンのフィルム一眼レフカメラ時代を築いたマウントです。日本が急激に豊かになった時代と合致し、この時代は各社の高価な一眼レフカメラが飛ぶ様に売れた時代。それだけに丁寧な作りが魅力のカメラ/レンズが沢山存在します。
まず、1970年からスタートしたFDマウントのレンズについて特徴を一言で表すなら「TTL開放測光」を可能としたレンズと言えます。
カメラは写す対象である被写体が受ける光の量に応じて露出を決めねばなりません。その為には光の量を測定する「測光」が必要になりますが、以前のFLマウントでは絞り羽根を実際に絞り込んでからレンズを通じて入ってくる光の量を測る「TTL絞り込み測光」を行っていました。
絞り込み測光では、測光のために絞り込みレバーを押して絞り羽根を動かしてから測光する面倒な所作を強いられます。
それに対しFDマウントが実現した「TTL開放測光」は、レンズ絞り羽根を動かす事なく、絞りを開放にしたまま(実際に撮影時には絞り込まれる値に応じた)測光を可能としました。
これを実現する為に、FDマウントのレンズには、そのレンズが持つ絞り開放値の情報をレンズについたピンの長さでカメラボディ側に伝えます。
これにより、カメラボディ側は装着されたレンズの絞り開放値を把握することができ、そこから何段絞り込まれたかでレンズ側が設定した絞り値を算出する事が出来ます(同様にカメラボディ側で設定した絞り値をレンズ側に伝える事も出来ます)。
いまでこそ電子制御で簡単にやり取りできるこれら情報ですが、当時は全てメカニカルな機械仕掛けで行っていたのですから、その緻密な制御には感心します。
また、FDマウントが出た当時は、まだ露出の自動化(AE)を搭載したカメラボディをキヤノンはリリースしていませんでしたが、来るべきAE化時代を見据えた仕様になっていました。その為、1976年にリリースされた世界初のCPU搭載AEカメラ「Canon AE-1」にも難なく対応しています。
FDレンズの外観上の特徴としては、レンズ根元に位置するシルバーの締め付けリング。FLレンズ同様に当該部分を回して締め込んでレンズをカメラボディに装着する構造です。
続く1979年からスタートしたNewFDマウントは、FDマウントの改良版なのですが、実に凝った改良が施されています。
NewFDマウントの特徴を一言で表すと「レンズ機構のモダン化」と言えるでしょう。具体的には、FDレンズとの互換性はそのままにレンズのコンパクト化や、レンズ着脱方式の見直しによるロック機構を搭載したワンタッチ着脱が挙げられます。
(※FDレンズ時代、レンズ根元に見られたシルバーの締め付けリングは姿を消し、NewFDでは新たにロックボタンが追加されます)
これら機構は現在のレンズ交換式カメラにも通じるもので、デジカメに慣れたフィルムカメラに触れた事の無い方でも、あまり違和感なく操作ができるにでは無いでしょうか。そうした現在にも通じる機構がこの時代に確立されたと言えます。
また、NewFDマウントのレンズは、レンズ単体ではレバーを動かしても絞り羽根を動かす事はできません。NewFDマウントを見ると一目瞭然なのが冒頭画像にもあるようにピンの数が大きく増えている事で、カメラボディに装着された際にピンが押下され、そこで初めて絞りレバー等が有効となります。ボールペン等でピンを押し込んで絞りレバーを動かす事も可能ですが結構難儀です。
その為、たまにカメラに詳しい店員が居ないリサイクルショップでは「動作不良」としてFDレンズが投げ売りされていたりしますが、実は絞りレバーが動かないのは仕様だったりします(そういう固体は乱暴にジャンク品の箱へ放り投げられたりしているので買おうとは中々思いませんが、、、)
FDマウント及びNewFDマウントでは、カメラボディ側とレンズ側で絞り値を互いに伝達し合い、協調動作を行う等の制御が見られます。興味深いのは、昨今のような電子式では無く、物理レバーの位置といったメカニカルな精密機構で確実に伝達を果たしている点です。
このように、FDマウント/NewFDマウントは、とても凝ったギミックで構成されており、電子制御が一般的な現在では不思議な目新しさがあります。
こうしたメカニカルの極みとも言える仕様を愉しむ意味で、夜更けにFDマウント/NewFDマウントのレンズとカメラボディをワイン片手に当時の技術者の試行錯誤にリスペクトを感じながらガチャガチャ弄って遊ぶのは、これまた中々心地よいものです。〔了〕