Lo-Fiレンズ、7Artisans 50mm F1.1 (その1)
「Lo-Fi」(ローファイ)なる言葉を耳にした事ある方も多いのではないでしょうか。いわゆるオーディオや映像分野で1970〜80年代に謳われた「Hi-Fi」(ハイファイ:High Fidelity=高忠実度、高精細)の対義語として、生まれたLo-Fiなる言葉は「Low-Fidelity」とネガティブな意味を持つものでした。
それが昨今では、一大Lo-Fiブームが巻き起こっています。高音質な音楽配信サービスが当たり前となった現在において、敢えて意図的に歪ませ、アナログ感の溢れるリラックスした雰囲気を持たせたミュージック「Lo-Fi Hip-Hop」は主にYouTubeを媒介に、世界中でムーブメントとなっています。
時を同じくして、いま世界中でフィルムカメラのブームも巻き起こっています。
誰でも高精細な写真が簡単に撮れる時代だからこそ、敢えて手間が掛かり、画質も劣るフィルムカメラを使うことが新鮮であり、オシャレであり、知的活動とさえみなされる(!)。まさに、カメラ世界におけるLo-Fiムーブメントと言えるのではないでしょうか。
このように、音楽であれ写真であれ「時代のキブン」はHi-Fi化が高度に進んだ反動としての、Lo-Fiな、つまりチルでメロウでリラックスな方向性にあると考えます。
前置きが長くなりましたが、そんなLo-Fi時代に最適なレンズを購入しました。中国・深圳を拠点とする新興レンズメーカー「七工匠(しちこうしょう)※英語表記名:7Artisans」の単焦点レンズです。
七工匠(7Artisans)の名前は、中国のカメラ愛好家7人のプロジェクトとしてスタートした事に由来するそうです。
2015年夏、中国のカメラ愛好家たちが集う夕食会を発端とする7Artisans Projectは、レンズ光学に長けた者、デザインに長けた者、生産工程に長けた者など各々が得意とする分野を集約し、趣味性の高いレンズの開発と商品化を目指します。
私が購入したのは、そんな七工匠の単焦点レンズ「7Artisans 50mm F1.1」。カメラ好きの方なら、この「F1.1」という数値の持つ凄さに驚くと共に、”あのレンズ”を思い浮かべる事でしょう。
そう、”あのレンズ”とは、ドイツのライカ社が作る「LEICA Noctilux 50mm f1.0」(ライカ・ノクチルックス)。現在では販売終息となっていますが、ざっくり価格が中古でも約100万円(!)する究極の標準レンズです。
(CC Photo by Yixiong Zhang)
1976年に発売された「LEICA Noctilux 50mm f1.0」は、F1.0というレンズの明るさ(2008年のマイナーチェンジでF0.95に更改)や、美しいボケ、圧倒的な描画力など全てにおいて伝説的な存在となっているレンズです。
私の購入した「7Artisans 50mm F1.1」は開放値が1/3段違えど、そんな「LEICA Noctilux 50mm f1.0」をリスペクトして作られたレンズと言われており、外観の雰囲気からかなり意識されているのが分かります。
レンズタイプが全く異なる点など、Noctiluxをコピーしたのでは無く、"Noctilux風"を目指しつつも、ゼロベースで再設計されている事が分かります。←ここ重要です。いわゆるコピー品ではなく、リスペクト品なのです。この違いは大きい。
この「7Artisans 50mm F1.1」が発売された2017年当時、ネット上ではライカ愛好家のみならず、多くのカメラ愛好家たちが、ざわついたのは「F1.1」という明るさを実現しながらも、Noctiluxの実に1/20の価格おさめている圧倒的なコスパを実現している点(米国での定価は$369.9)。この価格なら「ダメ元で、物は試しに買ってみようかな」と言い訳し易いですからね。
「Poor man’s Noctilux」=貧乏人のノクチルックス等と揶揄される「7Artisans 50mm F1.1」ですが、さすがに1/20の価格差では比較対象とするのもバカげてますし、ユーザー側も別にNoctiluxを意識している訳でも無いでしょう。
次回は、そんなLo-Fi感漂う「7Artisans 50mm F1.1」とよく似た「TTArtisan」のレンズについてもご紹介します。〔つづく〕