ヤマハ「NS-10M」の系譜


ヤマハのスピーカー、テンモニこと「NS-10M」に関する話を先日の記事で記載しましたが、一言で「NS-10M」と括っても、実は1978年のデビューから2001年の生産終了に至る迄の期間に様々なバリエーションがリリースされています。


どれも似通っているので、私も混同しがちですが備忘録として記載してみました。

まず、大きく3つの世代+αに分かれています(この世代定義は私の見解である点はご留意下さい)。一番右の「NS-10MT」(1995年)を+α扱いにしたのは、それまでのNS-10Mシリーズとは特性が大きく異なる為です。


まず、元祖となる初代「NS-10M」は1978年にリリースされます。インピーダンス8Ω、再生帯域は低音60Hz〜20kHz。注意すべきはリリース時点ではスタジオ用のモニタースピーカーとして誕生した訳では無く、あくまで家庭用でのスピーカーだった、という点です。

これは当時のカタログにも記載されていますが、あくまで部屋の中で都会的にオシャレに使うことを想定されています。密閉型でキレの良い小型スピーカーとして売り出されており、その背高なシルエットからヤマハ自ら「ビックベン」という愛称をつけている程に、コンシューマー向けモデルでした。

 

ところがヤマハの意図とは別に、世界中のレコーディングスタジオでスタジオモニター用スピーカーとして好まれ、30万台を超える大ヒット製品となります。

これに気を良くしたヤマハはマイナーチェンジを行い、家庭用からプロユース向けにシフトします。それが第2世代目として1987年に一気に3タイプに分かれてリリースされた「NS-10M PRO」「NS-10M STUDIO」「NS-10MC」です。

 

「NS-10M PRO」(1987年)は、基本仕様は初代と変わらず、インピーダンス8Ω、再生帯域は低音60Hz〜20kHzなれど、初代「NS-10M」の正統進化版として高音域を狙うツイーター部分の仕様を若干変更しています。

当時、初代NS-10Mではツイーターの高音がキツくて耳に刺さりやすいとのネガティブな意見があり、よくティッシュペーパーをツイーターの前に掛けていた等の逸話が聞かれました。面白いことにヤマハ自身、2代目となるNS-10M PROのカタログで「最近ではツイータにペーパーをかぶせて使っています。(中略)デジタルソースのより直線性の強い高域に対応するためで、NS-10M PROは、こうした状況を踏まえて、デジタル時代にリファインしたプロ仕様モニター」と高音部分の改善を述べています。

加えてNS-10M PROではスピーカー表面に「FOR PROFESSONAL USE MODEL」と追記されました。

(※やや話が逸れますが、NS-10M PROの発売から少し経った頃、ヤマハは現在にも続く「Active Servo Technology」という豊かな低音を出す仕組みを生み出します。その中でヤマハがサブウーハー「AST-SW100」をリリースしますが、このウーハーはNS-10M PROと組み合わせて用いる際に最適となるハイカットフィルタを備えていました。当時から初代NS-10Mや2代目NS-10M PROは共に低音が弱かった為、その欠点をサブウーハーで補う構成を提案してきた訳です。サブウーハーと組み合わせることで晴れて21Hzの低音まで出せる2.1chステレオ構成となります)

 

「NS-10M STUDIO」(1987年)は、前述の「NS-10M PRO」と音響面での仕様は同じも、2つ違う点があります。1つが「横置き」前提のデザインであること(印字が横向きなこと)、そして保護用のサランネットが無い点です。

即ち前述の「NS-10M PRO」は名前こそPROを謳っていますが、その実、プロフェッショナルなイメージで売り出された家庭用も射程にいれたモデルであり、真にプロ向け仕様は、こちらのNS-10M STUDIOだったりする訳です。

 

「NS-10MC」(1987年)も横向き設置ですが、こちらはサランネットが付属します。唯一違う点は筐体上面に金具用のネジ穴が開けられていること。つまり、店舗の天井等に吊り下げて設置される想定のようで、埃除けとなるサランネットが付属するのも理解できます。当時はシャレた都会的な店の天井にはBOSE 101MMを吊り下げるのが流行っていたので、そうした用途を想定したものと思われます。

 

第3世代となる「NS-10MX」(1993年)も基本仕様は初代〜2代目と同じくインピーダンス8Ω、再生帯域は低音60Hz〜20kHz。唯一の変更点は防磁仕様となった点です。

 

そして最後の+α的な存在と言えるのが「NS-10MT」(1995年)。NS-10MTは、従来までの仕様と大きく異なり、インピーダンスは6Ωに、再生帯域も低音43Hz〜30kHzと大きく拡張されます。これは前面にバスレフポートが追加されたことにより、それと併せてデザイン上もツイーターの位置が中央に移動している他、スピーカー筐体自体も奥行きが56mmも大きくなる等、かなり「別物」の印象が拭えません。

その為、大ヒットしたNS-10Mシリーズの系譜では、やや例外的な扱いを受けています。

 

こうして1978年から脈々と続いてきたNS-10Mシリーズですが、その特徴である白い紙のスピーカーコーンの原材料調達が困難となったことを理由に2001年に生産中止となっています。

ちょうどその頃、ネット上ではオークションサイトのサービスが普及してきた頃と重なり、生産終了の知らせを受けて中古価格が値上がりしたのを覚えています。その後も経年と共に状態の良い個体が限られてきている事もあってか、中古相場もジリジリと値上がり傾向のまま現在に至っています。

 

ただ、いずれにせよ発売からかなりの年月が経っており、見た目の良い中古個体も必ずしも音が良いとは限らないのがNS-10Mの注意すべき点です。

複数台を所有するマニアたちの間では「個体差が激しい」とも言われており、今から手を出すには、やはり中々ハードルの高いスピーカーとなってしまった感は否めません。

もし、これから購入される方は、その辺りを十分ご注意下さいませ。〔了〕