遅れ馳せながら「成瀬」

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今時分まで手を出さず仕舞いだった事を悔やんだ小説「成瀬シリーズ」。宮島未奈氏による連作短編で、イラストレーターざしきわらし氏の表紙絵が印象的です。


成瀬シリーズは主人公・成瀬あかりと、その周辺で起こる出来事を描いた青春小説。1作目「成瀬は天下を取りにいく」(2023年4月リリース)では中2〜高3迄を、2作目「成瀬は信じた道をいく」(2024年1月リリース)では高3〜大学1年迄を描いています。

 

一風変わった雰囲気を持つ少女・成瀬は、揺るぎない強い信念と意志に突き動かされる人物。学歴優秀で完全無欠の立ち振る舞いを見せる一方、不意に見せる年相応に脆い感情の動きが丁寧に綴られているのが印象的です。

「こんな娘、実際にいる訳が無い」と感じる破天荒さも、細密で虚実入り混じる周辺ストーリーから不自然さ無く、成瀬にリアリティとシンパシーを感じるのもこの小説の緻密なところ。

表紙を飾るざしきわらし氏の絵柄が好きで、本屋に平積みされた本書を気になりつつも素通りしてきた日々。こんなにも読後感爽快な小説だと分かり、もっと早く読むべきだったと悔いた程にハマりました。

 
成瀬は信じた道を行く

本作の舞台は滋賀県大津市。聖地巡礼の様子を見ても地味な地方都市と分かります。大津はおろか滋賀にも訪れたことが無い私ですが、琵琶湖に浮かぶミシガンから主人公・成瀬の見た風景を体感したく、LCC便を検索する昨今。

そんな気にさせる、本当にステキな青春小説です。[了]